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5年以上子と別居していた父に親権を認めた珍しい判決(千葉家裁松戸支部H28年3月29日)

2017年1月6日

判例時報2309号121頁

※2017年1月24日,控訴審判決があるとの報道について追記しました。そのついでに本文も少し訂正しました。

 

5年以上子どもと別居していた父親に親権を認めた,珍しくも画期的な判決がありました。

様々な裁判例を掲載している「判例時報」という雑誌の2016年12月11日号(No.2309)にその全文が載りましたので,概要とポイントをご紹介します。

 

この判決は,2016年3月29日,千葉家裁松戸支部が言い渡したものです。

事件の経緯は次のとおり。


夫婦(父母)には長女がいましたが,2010年5月に母が長女(当時おそらく3歳)を連れ自宅を出て別居しました。以後本判決が出るまでの5年10ヶ月間,長女は母が監護し育てていました。

2011年,父は長女の監護者を父とするとの審判を申し立てましたが却下され,逆に母の申立が認容されて母を監護者とする審判が確定しました。その後2度にわたり父が同様の申立をしましたが,いずれも却下されています。

2012年,母が離婚訴訟を提起しました。父は離婚は認められないと争いましたが,離婚が認められてしまった場合に備えて,裁判所が離婚を認める場合は親権者は父が相応しいとして親権を予備的に主張したものです。

 

訴訟中の具体的なやりとりは不明ですが,母は父子の面会交流には消極的であり,5年10ヶ月の別居期間中,父子の面会交流は6回程度しかなされなかったようです。

これに対し父は,親権者となった場合には母子の面会交流を積極的にさせるという提案をしました。それは,判決が定めた後記「面会交流の要領」と同内容の面会交流の提案でした。私たち弁護士の経験からしてもまず見ない驚きの充実度です。

 

このような積極的な面会交流の提案がおそらく決定的な理由となり,離婚後の親権者を父と定める判決が出たようです。判決は,離婚を認めた上で親権者を父と定め,母と子との面会交流の頻度・方法を,次の「面会交流の要領」のとおり定めました。

 

「面会交流の要領」

1 定期的な面会交流
(1)本判決確定後,最初に来る金曜日の19時から日曜日の19時までを1回目と

して,以降,隔週の金曜日の19時から日曜日の19時まで,面会交流を行う。
(2)面会交流の場所は,原則として○○,○○,○○内に限る。
(3)開始時及び終了時の長女の引渡しは,被告の住居で行う。

2 不定期の面会交流
(1)定期的な面会交流の外,祝日,春の連休(4月29日から5月5日)及び長女

  の誕生日について,隔年ごとに面会交流を認める。そして,原告の誕生日年末

  (12月23日から12月30日)については,毎年面会交流を認め,加えて,

夏に2週間それ以外の時期にも1週間の長期面会交流を認める。
(2)この場合の面会交流については,その具体的日時,場所,方法等は,長女の福

祉に配慮し,事前に当事者双方が協議して定めることとする。

3 電話での交流
1日に1回,1時間を限度として,電話での交流を認める。

4 被告の不履行の場合の特則
被告は,被告が正当な理由なく上記面会交流に応じない場合は,それが親権者変更

の事由となることを認める。


 

これまでの弁護士の感覚では,親権者となれなかった親の面会交流は,月に1回10時間程度,長期休みに1回は1泊の面会,という程度という感じでした。

 

ところが本判決の「面会交流の要領」は,

① 隔週1回48時間

② 祝日は隔年で

③ ゴールデンウィークは隔年で7日間

④ 子の誕生日は隔年で

⑤ 年末は毎年8日間

⑥ 母の誕生日は毎年

⑦ 夏休みに毎年14日間

⑧ 夏休み以外の時期に毎年7日間

の面会交流を認めた上でさらに,

⑨ 毎日1時間の電話交流

を認めるという充実ぶりです。

親権者となった父としても,相当な覚悟をもってこれを提案したものと思います。

 

親権者を父母のどちらにするかは,「子の福祉に適うかどうか」という基準で判断されます。そして,通常は子の監護環境の安定を図るという視点が重視され,長期間監護していた親のもとで今後も監護されることが子の福祉に適うと判断される場合がほとんどであり,したがって現在の監護親が親権者となる例が多いと言えましょう。

 

ところが本判決はそのような従来の考え方とは異なり,子の福祉に適うかどうかの判断にあたって,離婚後に非監護親との面会交流が確保されるかどうかを重視し,母が親権者となると父との面会交流が阻害される可能性がある一方,父が親権者となれば母との充実した面会交流が実現できるであろうと期待できることから,それまで5年10ヶ月もの間監護していなかった父に親権を与えたもので,判断の基礎となる考え方が画期的であり,珍しいものと言えます。

 

なお,本件は控訴されているようです。控訴審がどう判断したか,これも注目です。


2017年1月24日 追記

毎日新聞の報道によると,この事件の控訴審判決が今年1月26日に言い渡されるとのことです。

 

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