今朝の北日本新聞の記事です。
志布志(しぶし)事件の捜査「違法」,国・県に6000万円賠償命令
「志布志事件」とは,2003年の鹿児島県議会議員選挙で,鹿児島県志布志市(当時は志布志町)の住民に現金などを配ったとして,公職選挙法違反の容疑で多数の人が取調べを受け,その取調べの過程で警察官から「踏み字」(※)を強要されたり脅迫されたりしたという事件です。
※「踏み字」:「お前をこんな人間に育てた覚えはない」などと書いた紙を被疑者の座る椅子の前に置き,警察官が被疑者の足を持って紙を踏み付けさせたという出来事。
公職選挙法違反事件は,起訴された13人が全員無罪となりました。
「踏み字」を強要した警察官はその後特別公務員暴行陵虐罪で起訴され,2008年3月18日に有罪判決を受けています。
今回の判決は,違法な取調べを受けたなどとして国と県に損害賠償を求めた訴訟です。
訴訟は2件(①原告17人の訴訟と②7人の訴訟)あったようで,鹿児島地裁は5月15日,①について国と県に5980万円の支払いを命じ,②については県に184万円賠償を命じました。→毎日新聞記事
刑事弁護人の世界ではこの志布志事件はとても有名な冤罪事件です。
捜査機関はしばしば,早い段階で事件の筋を立て,それに見合った自白をとろうとして虚偽自白を強要します。志布志事件は,そのような自白強要の害悪が一挙に吹き出したような事件でした。
公職選挙法違反事件で起訴された中には,実は虚偽の自白をしてしまった人が6人もいました。しかし,違法な取調べがなされたことが法廷で明らかにされ,自白してしまった被疑者も含め,全員無罪となったのです。無罪となったのはとても幸運なことでした。
そのような幸運はほとんどありません。
ですから,虚偽の自白は絶対にしてはいけません。
しかし,個人の力には限界があります。逮捕・勾留されてしまうと23日間も外界から閉ざされ孤立してしまいます。気弱な人もいるし,利益誘導に弱い人もいます。
なので,虚偽自白をしないよう注意することよりももっと大事なのは,取調べを全部録音・録画すること(取調べの可視化)です。これにより取調官の違法取調べを抑制するとともに,裁判で取調べの違法性が争いとなったときの証拠を残しておくのです。
今日の報道を見て,あらためてそのことを強く思いました。
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