弁護士のつぶやき

「先物取引被害の回復」をうたった探偵業者にご注意を!

今秋,過去に先物取引で被害に遭った方が2次被害にあったという事件を受任しましたのでご紹介します。依頼者のご承諾を得た上で,個人情報が特定されない程度に事実を抽象化しています。

 

先物取引被害を回復できると勧誘されて

富山県西部に住むAさんにある日,見知らぬ番号から突然電話がかかってきました。相手は,九州に本店がある調査会社(探偵業)のR社。R社の代表者G氏は,Aさんが1999年に先物取引の被害に遭ったことをなぜか知っており,「訴訟をすれば被害を取り戻せる。訴訟する場合は先物取引業者の調査が必要だ」と言って,調査を勧誘してきました。

 

Aさんは過去に1000万円を超える先物取引被害を被っていたため「少しでも取り戻せるなら」と思い,市内の喫茶店でG氏と会って話を聞き,調査を依頼する契約書にサインしました。調査報酬は27万円でした。

 

しばらくしてR社から調査報告書が届きました。
調査対象の先物取引業者は10年前に業務停止処分を受けて先物取引を廃業しその後別会社に合併されたということで,調査報告書にはその別会社の写真などが貼り付けてありました。写真は訴訟するのに不要であり,合併うんぬんは誰でもインターネットで取得できるような情報でした。調査はこれだけ?Aさんは不審に思いました。

 

ところがこの後,G氏から追い打ちの勧誘がなされます。「訴訟するにはさらに調査が必要だ。追加調査費用は137万円だが,訴訟により被害を取り戻せば137万円くらい回収できる」と言ってきたのです。
市内の喫茶店で再勧誘を受けたAさんは,迷った末に分割で支払うことにして,追加調査についても契約してしまいました。

 

分割金を一部支払った後,何かおかしいと感じたAさんは,富山県消費生活センターへ相談しました。そして弁護士に相談することを勧められ,当事務所に相談に来られた,このような事件でした。

 

2つの「おかしい」

この事件では,2つの点が「おかしい」ことに気づきます。

 

① 過去に先物取引の被害に遭ったことを,なぜR社が知っていたのか?
② 九州地方の調査会社がなぜ富山県で営業活動を行っているのか?

 

先物取引の被害に遭った人々に対して「被害を回復する」と勧誘する本件類似の事件が過去にもあり(→国民生活センターのホームページ),先物取引被害者の名簿が流出しているのではないかと思われます。R社もその名簿を入手したのではないでしょうか。

そう考えると,九州地方からわざわざ富山県に出向いて営業・勧誘している理由も理解できます。富山県の先物取引被害者の名簿に基づき,手当たり次第に電話勧誘をしているのではないでしょうか。

 

どうする?
この事件には,つぎのような2つの解決の筋道がありました。

 

1つは,クーリングオフによる契約解除です。
クーリングオフとは,訪問販売等(本件は訪問販売に該当します)により契約した消費者が,法律で定められた書面(法定書面)を業者から受け取ってから一定期間内(例えば訪問販売であれば8日間)であれば自由に契約を解除することができるという制度です。契約を解除すると最初から契約がなかったことと同じになり,支払った代金は原則として全額戻ってきますし,未払いの代金は支払わなくてもよくなります。

 

本件では実は,相談を受けた時にはすでに契約から8日以上過ぎていてクーリングオフできないように見えました。しかし,業者から渡された書面を精査したところ重大な不備があったため,法定書面をまだ受け取っていない,したがってまだクーリングオフ期間8日間経過していないとして,クーリングオフができると判断できました。

 

もう1つは,不実告知による契約(意思表示)の取消しです。
「不実告知」とは,事実と異なることを告げることです。これにより消費者が契約が必要だと誤解し契約した場合は,その契約(の申込みまたは承諾の意思表示)を取り消すことができるという制度です。取り消すと,最初から契約がなかったことと同じになり,支払った代金は原則として全額取り戻すことができますし,未払いの代金は支払わなくてもよくなります。

 

Aさんが先物取引被害に遭ったのは1999年頃です。どんなに頑張って訴訟しても,先物取引業者側からは消滅時効を主張され,被害回復できる見込みはまずありません。にもかかわらずR社のG氏は,「訴訟すれば被害を取り戻せる」と不実を告知したのです。

 

R社には,クーリングオフ解除と取消しをする旨の書面を送付しました。

 

 

とにかく富山県消費生活センターへ電話を
Aさんは,富山県消費生活センターに相談して弁護士に相談するようアドバイスを受け,当事務所へ来られました。もし相談していなかったら,137万円の調査費用を全額むしり取られていたかも知れません。

 

クーリングオフ期間はわずか8日間ですが,多くの契約で法定書面を受け取っていないと評価される場合があります。8日間が過ぎていてもあきらめないで,まずは消費生活センターに相談してください。消費生活センターの相談は無料です。センター限りで問題が解決する場合もありますし,必要であれば消費者被害を扱う弁護士も紹介してもらえます。

富山県消費生活センター    :電話 076‐432‐9233

富山県消費生活センター高岡支所:電話 0766‐25‐2777

 

Aさんと同じような被害に遭いませんように,みなさんもご注意ください。

2015.12.22 | RSS 2.0 | コメント | トラックバック | このページの上へ▲

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Profile

高岡つばさ法律事務所のスタッフ
坂本義夫が日々の事を書き綴っています。

Entry
Calendar
2024年5月
« 6月  
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031 

お気軽にお問い合わせください