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イタイイタイ病訴訟弁護団~闘いの軌跡

前回に引き続いてイタイイタイ病(イ病)の話題を。

 

イタイイタイ病資料館では,2016年4月26日から5月5日まで,春の特別企画展

「イタイイタイ病弁護団の軌跡」

を行っています。詳細は→こちら

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写真中央はイ病訴訟弁護団副団長(イ病弁護団前団長)の近藤忠孝弁護士,右はイ病訴訟弁護団団長の正力喜之助弁護士

 

 メインは,イ病訴訟弁護団(※)の写真展。イ病訴訟の控訴審で完全勝利判決を獲得するまでの訴訟弁護団の写真をパネル展示しています。

※イ病訴訟弁護団:イタイイタイ病訴訟の原告ら代理人となった弁護団。控訴審で完全勝利判決を獲得し,被告三井金属との間で「イ病の賠償に関する誓約書」「土壌汚染問題に関する誓約書」「公害防止協定書」を取り交わした(→その内容はこちら)。その後,イ病訴訟弁護団の一部がこの誓約書・協定書を実現するために弁護団を存続させさらに新人弁護士を加入させて,2013年12月の全面解決調印までの41年間にわたる新たな闘いを続けることになりますが,このような判決後の闘いを遂行した弁護団を,「イ病訴訟弁護団」とは区別して「イ病弁護団」と呼んでいます。

 

 4月29日には,イ病弁護団の現団長朝倉正幸弁護士と,イ病訴訟弁護団の元団員である松波淳一先生(弁護士業はもうやめておられます)との対談があります。

 5月3日には,元NHK富山放送局プロデューサー奥田一重さんの講演「イタイイタイ病と公害報道」があります。

 

 いずれも魅力的な企画で,イ病資料館の意気込みが伝わってきます。

 北陸中日新聞も4月27日に報道していましたね。→ここ(魚拓)


イタイイタイ病の教訓を世界に

2016年4月27日の北日本新聞に

「世界に生かせ イ病の教訓」

という記事が載っていました。

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記事によると,イタイイタイ病(イ病)の教訓を発展途上国に発信し環境保護に生かしてもらうため,県立イタイイタイ病資料館が留学生向けの講座を開催するとのことです。

 

イ病の教訓を世界の環境保護に役立ててもらおうという画期的な取り組み。イ病弁護団の端くれとしては,実はとても感慨深いものがあります。今回はその思い出話を。

 

私が弁護士になった(と同時にイ病弁護団に加入した)2003年当時,イ病をめぐる闘い(イ病患者救済,発生源対策,土壌復元)はまだ収束の兆しもなく,弁護団が毎年何度も集まって会議を開き,発生源対策(公害防止対策)について神岡鉱業とどう交渉するか,毎年6月の環境省交渉で何を要求するか,イ病不認定患者の不服審査請求をするかといったことを繰り返し議論していました。

 

その会議の中で,イ病弁護団の団長であった近藤忠孝弁護士(故人)がよく,こうおっしゃっていました。

「三井金属・神岡鉱業は,世界に類を見ない無公害産業を作り出した。世界史的大事業を成し遂げたのだ」

「この成果を,世界に輸出すべきだ」

 

すでに当時,被害地域住民の目(監視),協力科学者(※)の知恵,三井金属・神岡鉱業の努力によって,神通川のカドミウム濃度はほぼ自然界値にまで達していました。かつてあれほどの公害をまきちらし被害を与えてきた三井金属・神岡鉱業が,神通川をほぼ自然の状態へ戻したことについて近藤先生は,「世界史的大事業を成し遂げた」と評し,この成果を世界に発信し,輸出すべきだと主張されていたのです。

※協力科学者:被害地域住民のために三井金属・神岡鉱業のプラントを点検監視し,同社らに公害防止対策を提案してきた科学者のグループ。

 

そして今日,近藤先生の思いが,イタイイタイ病資料館によってひとつ(わずかな一歩ですが)実現したのです。

近藤先生がお元気だったら,とても喜ばれたと思います。

 

(次は,40数年前にイ病訴訟を闘った弁護団について書いてみようと思います)

 

イ病資料館による留学生向け講座の案内(もう終わってしまいましたが)

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講演「裁判員になる前に知っておきたい3つのこと」

2016年3月14日(月)

 

1 「水曜会」にお招きいただいて

 高岡問屋センターの若手経営者の集まり「水曜会」にお招きいただき,

「裁判員になる前に知っておきたい3つのこと~弁護人からのメッセージ」

と題して1時間ほど話をさせていただきました。

 

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  経営者の集まりなので,取引先とのトラブルとか労務管理とか,経営に役立ちそうな話題も考えましたが,他の士業の業務と重ならないこと,弁護士でなければ話せないことということで,刑事事件を取り上げました。

 

 

 

 

2 知っておきたい3つのこと

 裁判員として「知っておきたい」(弁護人として知っておいてもらいたい)ことは実はたくさんありますが,今回は以下の3つに絞りました。

 

 

① 刑事訴訟の原則「疑わしきは被告人の利益に」の話
② 無実なのに自白してしまう人がいる=自白を疑うべき場合があること
③ 事件の背景を知り再犯防止・人生立て直しの支援をする必要があること

 

 特にお伝えしたかったのは②です。

 布川事件(※1),足利事件氷見事件(※2),志布志事件PC遠隔操作事件(事件本体ではなく,19歳の少年AのPCから意図せずに殺害予告が送信され,これをAの犯行として逮捕されて保護観察処分≒有罪認定を受けた事件)など,やってもいない人が自白してしまった例をご紹介しました。

  ※1:日弁連が事件の顛末について詳細な報告書を発表しています。→ここ

  ※2:富山県氷見市で発生した冤罪事件です。

 

 また,2010年に大阪府警の警察官が,任意同行した被疑者の取り調べで「殴るぞ!お前!」「手ぇ出さへん思たら大間違いやぞ!コラ!」などと言って脅迫し自白させようとした事件がありました。みなさんにその取り調べの音声を聞いていただきました。

 現在でもこのような犯罪的な(というか犯罪です。その後脅迫罪で罰金刑を受けました。)取り調べが行われていること,そんな取り調べでは確かに無実の人が自白してしまうこともあるだろう,ということをお伝えできたと思います。

 

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3 裁判員へのお願い

 従来から「真犯人でもない人が自白するわけはない」と言われてきましたが,それはもはや常識(経験則)ではありません。逆です。「真犯人でもない人も(虚偽の)自白をすることがある」というのが常識です。

 裁判員になるみなさま,取り調べで自白していた被告人が裁判では「本当はやってないんだ」と言って否認する事件に遭遇したら,ご注意ください。自白は真実ではないのかもしれない,と疑ってください。そして,「疑わしきは被告人の利益に」判断してください。

 

4 最後に

 今回「水曜会」に声をかけてくださった(有)沖商店(※3)の沖昌幸社長に感謝いたします。

 ※3:沖商店では,小学校から高校までの制服,ビジネスウエアなどを扱っておられます。小売りもされています。うちもお世話になりました。


「先物取引被害の回復」をうたった探偵業者にご注意を!

 今秋,過去に先物取引で被害に遭った方が2次被害にあったという事件を受任しましたのでご紹介します。依頼者のご承諾を得た上で,個人情報が特定されない程度に事実を抽象化しています。

 

先物取引被害を回復できると勧誘されて

 富山県西部に住むAさんにある日,見知らぬ番号から突然電話がかかってきました。相手は,九州に本店がある調査会社(探偵業)のR社。R社の代表者G氏は,Aさんが1999年に先物取引の被害に遭ったことをなぜか知っており,「訴訟をすれば被害を取り戻せる。訴訟する場合は先物取引業者の調査が必要だ」と言って,調査を勧誘してきました。

 

 Aさんは過去に1000万円を超える先物取引被害を被っていたため「少しでも取り戻せるなら」と思い,市内の喫茶店でG氏と会って話を聞き,調査を依頼する契約書にサインしました。調査報酬は27万円でした。

 

 しばらくしてR社から調査報告書が届きました。
 調査対象の先物取引業者は10年前に業務停止処分を受けて先物取引を廃業しその後別会社に合併されたということで,調査報告書にはその別会社の写真などが貼り付けてありました。写真は訴訟するのに不要であり,合併うんぬんは誰でもインターネットで取得できるような情報でした。調査はこれだけ?Aさんは不審に思いました。

 

 ところがこの後,G氏から追い打ちの勧誘がなされます。「訴訟するにはさらに調査が必要だ。追加調査費用は137万円だが,訴訟により被害を取り戻せば137万円くらい回収できる」と言ってきたのです。
 市内の喫茶店で再勧誘を受けたAさんは,迷った末に分割で支払うことにして,追加調査についても契約してしまいました。

 

 分割金を一部支払った後,何かおかしいと感じたAさんは,富山県消費生活センターへ相談しました。そして弁護士に相談することを勧められ,当事務所に相談に来られた,このような事件でした。

 


2つの「おかしい」

 この事件では,2つの点が「おかしい」ことに気づきます。

 

① 過去に先物取引の被害に遭ったことを,なぜR社が知っていたのか?
② 九州地方の調査会社がなぜ富山県で営業活動を行っているのか?

 

 先物取引の被害に遭った人々に対して「被害を回復する」と勧誘する本件類似の事件が過去にもあり(→国民生活センターのホームページ),先物取引被害者の名簿が流出しているのではないかと思われます。R社もその名簿を入手したのではないでしょうか。

 そう考えると,九州地方からわざわざ富山県に出向いて営業・勧誘している理由も理解できます。富山県の先物取引被害者の名簿に基づき,手当たり次第に電話勧誘をしているのではないでしょうか。

 


どうする?
 この事件には,つぎのような2つの解決の筋道がありました。

 

 1つは,クーリングオフによる契約解除です。
 クーリングオフとは,訪問販売等(本件は訪問販売に該当します)により契約した消費者が,法律で定められた書面(法定書面)を業者から受け取ってから一定期間内(例えば訪問販売であれば8日間)であれば自由に契約を解除することができるという制度です。契約を解除すると最初から契約がなかったことと同じになり,支払った代金は原則として全額戻ってきますし,未払いの代金は支払わなくてもよくなります。

 

 本件では実は,相談を受けた時にはすでに契約から8日以上過ぎていてクーリングオフできないように見えました。しかし,業者から渡された書面を精査したところ重大な不備があったため,法定書面をまだ受け取っていない,したがってまだクーリングオフ期間8日間経過していないとして,クーリングオフができると判断できました。

 

 もう1つは,不実告知による契約(意思表示)の取消しです。
 「不実告知」とは,事実と異なることを告げることです。これにより消費者が契約が必要だと誤解し契約した場合は,その契約(の申込みまたは承諾の意思表示)を取り消すことができるという制度です。取り消すと,最初から契約がなかったことと同じになり,支払った代金は原則として全額取り戻すことができますし,未払いの代金は支払わなくてもよくなります。

 

 Aさんが先物取引被害に遭ったのは1999年頃です。どんなに頑張って訴訟しても,先物取引業者側からは消滅時効を主張され,被害回復できる見込みはまずありません。にもかかわらずR社のG氏は,「訴訟すれば被害を取り戻せる」と不実を告知したのです。

 

 R社には,クーリングオフ解除と取消しをする旨の書面を送付しました。

 

 

とにかく富山県消費生活センターへ電話を
 Aさんは,富山県消費生活センターに相談して弁護士に相談するようアドバイスを受け,当事務所へ来られました。もし相談していなかったら,137万円の調査費用を全額むしり取られていたかも知れません。

 

 クーリングオフ期間はわずか8日間ですが,多くの契約で法定書面を受け取っていないと評価される場合があります。8日間が過ぎていてもあきらめないで,まずは消費生活センターに相談してください。消費生活センターの相談は無料です。センター限りで問題が解決する場合もありますし,必要であれば消費者被害を扱う弁護士も紹介してもらえます。

 富山県消費生活センター    :電話 076‐432‐9233

 富山県消費生活センター高岡支所:電話 0766‐25‐2777

 

 Aさんと同じような被害に遭いませんように,みなさんもご注意ください。


中秋の名月

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9月27日は中秋の名月。

午後9時頃に写真を撮ってみました。

真ん中のクレーターがいつも気になります。放射状の筋,衝突したときにどんな感じだったんだろうかと。


7月13日は,講演会「日本の平和について考える」へ

富山県弁護士会が,集団的自衛権と安全保障法制を考える講演会を開催します。

 

「日本の平和について考える

-集団的自衛権と安全保障法制について-」

 

日時:2015年7月13日(月)午後6時30分~(午後6時開場)

場所:富山県民会館304号講義室

講師:井上正信さん(弁護士,日弁連憲法問題対策本部事務局員)

 

参加無料。

どなたでも参加できます。

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「志布志事件」の違法捜査に賠償判決

2015年5月16日

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今朝の北日本新聞の記事です。

志布志(しぶし)事件の捜査「違法」,国・県に6000万円賠償命令

 

「志布志事件」とは,2003年の鹿児島県議会議員選挙で,鹿児島県志布志市(当時は志布志町)の住民に現金などを配ったとして,公職選挙法違反の容疑で多数の人が取調べを受け,その取調べの過程で警察官から「踏み字」(※)を強要されたり脅迫されたりしたという事件です。

 

※「踏み字」:「お前をこんな人間に育てた覚えはない」などと書いた紙を被疑者の座る椅子の前に置き,警察官が被疑者の足を持って紙を踏み付けさせたという出来事。

 

公職選挙法違反事件は,起訴された13人が全員無罪となりました。

「踏み字」を強要した警察官はその後特別公務員暴行陵虐罪で起訴され,2008年3月18日に有罪判決を受けています。

 

今回の判決は,違法な取調べを受けたなどとして国と県に損害賠償を求めた訴訟です。

訴訟は2件(①原告17人の訴訟と②7人の訴訟)あったようで,鹿児島地裁は5月15日,①について国と県に5980万円の支払いを命じ,②については県に184万円賠償を命じました。→毎日新聞記事

 

刑事弁護人の世界ではこの志布志事件はとても有名な冤罪事件です。

捜査機関はしばしば,早い段階で事件の筋を立て,それに見合った自白をとろうとして虚偽自白を強要します。志布志事件は,そのような自白強要の害悪が一挙に吹き出したような事件でした。

 

公職選挙法違反事件で起訴された中には,実は虚偽の自白をしてしまった人が6人もいました。しかし,違法な取調べがなされたことが法廷で明らかにされ,自白してしまった被疑者も含め,全員無罪となったのです。無罪となったのはとても幸運なことでした。

 

そのような幸運はほとんどありません。

ですから,虚偽の自白は絶対にしてはいけません。

 

しかし,個人の力には限界があります。逮捕・勾留されてしまうと23日間も外界から閉ざされ孤立してしまいます。気弱な人もいるし,利益誘導に弱い人もいます。

なので,虚偽自白をしないよう注意することよりももっと大事なのは,取調べを全部録音・録画すること(取調べの可視化)です。これにより取調官の違法取調べを抑制するとともに,裁判で取調べの違法性が争いとなったときの証拠を残しておくのです。

 

今日の報道を見て,あらためてそのことを強く思いました。


警察が弁護人接見を盗聴?(袴田事件)

 2014年4月14日,福井地裁で高浜原発の運転差止め仮処分決定がなされたことが大ニュースとなっていますが,その影でとても重大なニュースがありました。

 

 袴田事件(→Wikipedia)で,静岡県警が袴田さんと弁護人との接見を盗聴・録音していたのではないかというニュースです(→中日新聞WEBの魚拓)。

 

 報道によると,東京高検幹部が「接見時とみられる音声が録音されていることは把握している」と話しているとのことですし,弁護人が録音に同意するはずもないので,接見を「盗聴」したのは間違いなさそうです。

 

 前に所属していた事務所で,先輩弁護士が「重大事件では弁護人の接見も盗聴されている可能性があると思って注意しているんだ」と話してくれたことがありました。そのときは「本当にそんなことがあるのか?」と思っておりました。先輩すいません。私がバカでした。

 

 このブログを読まれた方の中には,「犯人でないのなら,会話を録音されても構わないのではないか」と思われる方もいるかもしれませんが,それは楽観的すぎます。

 

 例えば被疑者が接見で弁護人に,①「早く帰りたい」,②「母親が病気で心配だ」,③「事件当時は友達の家で飲んでいた」などと話したとしましょう。接見を盗聴した取調官は,①や②の場合,取調べ時に「自白しないと帰れない,母親にも会えない」と言って被疑者の弱点を突いて脅すことができます。③の場合,友達に接触して「正確なことを言わないと犯人隠避になりかねない」と言って,友達に当時のアリバイを供述させない(少なくとも曖昧な供述に落とす)こともできます。

 こうして虚偽自白,アリバイ潰しなどによって,無実の者が有罪となる冤罪の危険があるのです。そして,冤罪はすなわち真犯人の放置ですから,被害者の救済にもなりません。

 弁護人との接見を盗聴することは,仮に被疑者が真犯人であっても憲法34条に違反するとか,フェアではないとか,そもそもそれ自体が違憲・違法・不当ですが,真犯人ではない場合は上記のような実害も発生します。

 

 袴田事件の当時警察が何をしたのか,この再審公判で徹底的に明らかにしてもらいたいですね。


東京へ

 北陸新幹線が開業した3月14日,大学時代の恩師(ゼミの教官)の退官祝賀会のため,東京へ行きました。

 

 停車駅の多い「はくたか」で約3時間。「かがやき」に比べると乗車時間は長いですが,座席前後の広さ,揺れの少なさ,静かさ,乗り換えなしなど,特急+上越新幹線の時代に比べると,かなり快適になりましたね。

 

 もう20年も前の学生時代,労働法のゼミをとっていました。当時,労働法はあまり人気がなく,私の1学年上が1人,同学年が私含めて3人,1学年下は4人でした。

 ところがここ数年は毎年だいたい10人くらいのゼミ生が入ってくるそうです。ブラック企業の問題が報道され,残業代ゼロ法案(詳しくは→こちらこちら)が検討されるなど,労働問題が身近になっているからでしょうか。

 

 恩師は相変わらずダンディでお変わりないようす。一橋大学で法学部長や副学長も務められ,法科大学院設立時の苦労話やお連れ合いとの関係など,おもしろいお話がたくさん聞けました。

 

 同期の友は,20年が経過して若干歳をとっておりました(笑)。昔話から今の生活や仕事のことまで,20年分の話ができました。

 よい旅になりました。


氷見冤罪事件

2015年3月9日,氷見冤罪事件の国家賠償請求訴訟の判決が富山地裁でありました。

この直前,私はちょうど仕事で富山家裁(地裁と同じ建物)に来ていました。裁判所周辺には報道陣が詰めかけていて,

「何か大きな事件があるんだな」

と思っていたところ,氷見冤罪事件(※)の判決でした。

 

※氷見冤罪事件

 2002年に氷見市で発生した強姦と強姦未遂事件で,柳原浩さんが逮捕・起訴され,有罪判決が確定して服役後,

 2006年に真犯人が見つかって柳原さんの事件が冤罪であったことが判明した事件。

 

報道によると,県に約1970万円の損害賠償を命じたとのことです。

賠償額はともかく,当時の氷見警察署警察官の行為に違法があったという判断は当然に思います。

 

冤罪被害者の柳原さんは,

犯行場所(被害者宅)までの道のりを案内し

犯行場所の見取図を書き

犯行態様を供述した

ことになっています。

 

犯人ではないのに! です。(真犯人は柳原さんの服役後に逮捕されています)

 

これは一体どういうことなのでしょうか。

犯人ではない者がなぜ,被害者宅を案内できたのか。

犯人ではない者がなぜ,正確な見取図を描けたのか。

犯人ではない者がなぜ,被害者が供述したのと同様の犯行態様を語ることができたのか。

 

例えば見取図について,柳原さんは,取調官が柳原さんの手をとって見取図を描いた(描かせた)と言っています。

また,暴行,脅迫により自白を強要されたとも言っています。

その真偽は私には分かりませんが,少なくとも,警察官が「指示」や「指導」でもしなければ,描けるはずがありません。

被害者宅の案内も,犯行態様の供述も,同様です。

 

つまり,柳原さんの自白なるものは,警察官が作ったフィクション,嘘の物語だったのです。

 

この冤罪事件では,柳原さんの無実を推認させるいくつもの客観的な証拠がありました。

●柳原さんの足よりも3センチ以上も大きいサイズの犯人の靴跡,

●犯行時刻に柳原さんの自宅固定電話から電話がかけられたことを示すNTTの通話記録,

●犯行に使用されたのはサバイバルナイフとチェーンであったとする被害者の供述に合う物証が出ず,柳原さん宅からは果物ナイフとビニールひもしか発見されなかったこと

●この事件では犯人が被害者に「100数えるまで動くな,目を開けるな」と言って逃げるという特徴的な手口がとられていたところ,柳原さん逮捕後も氷見署管内で同じ手口で逃げる強姦事件が複数(そのうち1件は裁判中に)発生していること

などなど。

 

このような証拠を見落として(または知っていて目をつぶって)柳原さんを犯人と決めつけ,「嘘の物語」を作ったのです。

許されない違法な捜査といわざるを得ません。

 

同様の冤罪事件をなくすには,最低限,取調べの可視化(取調の全過程の録音録画)が不可欠です。

2010年,大阪府警の取調官が,任意同行後の取調べで大声を上げ被疑者を脅迫した事件がありました。
 →Wikipedia「大阪府警警部補脅迫事件

これは,被疑者が取調べを録音していたから認識できたのです。録音されていなければ闇に葬られたことでしょう。

 

現代日本でもまだこのような取調が現実に行われています。

柳原さんの取調べでも,同様の様子だった可能性が十分あります。

そのような違法取調べを抑止するためにも,違法取調べであったこと(違法取調べではなかったこと)を立証するためにも,取調べの全過程の録音・録画が必要だとあらためて思いました。


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高岡つばさ法律事務所のスタッフ
坂本義夫が日々の事を書き綴っています。

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