2015年3月9日,氷見冤罪事件の国家賠償請求訴訟の判決が富山地裁でありました。
この直前,私はちょうど仕事で富山家裁(地裁と同じ建物)に来ていました。裁判所周辺には報道陣が詰めかけていて,
「何か大きな事件があるんだな」
と思っていたところ,氷見冤罪事件(※)の判決でした。
※氷見冤罪事件
2002年に氷見市で発生した強姦と強姦未遂事件で,柳原浩さんが逮捕・起訴され,有罪判決が確定して服役後,
2006年に真犯人が見つかって柳原さんの事件が冤罪であったことが判明した事件。
報道によると,県に約1970万円の損害賠償を命じたとのことです。
賠償額はともかく,当時の氷見警察署警察官の行為に違法があったという判断は当然に思います。
冤罪被害者の柳原さんは,
犯行場所(被害者宅)までの道のりを案内し,
犯行場所の見取図を書き,
犯行態様を供述した
ことになっています。
犯人ではないのに! です。(真犯人は柳原さんの服役後に逮捕されています)
これは一体どういうことなのでしょうか。
犯人ではない者がなぜ,被害者宅を案内できたのか。
犯人ではない者がなぜ,正確な見取図を描けたのか。
犯人ではない者がなぜ,被害者が供述したのと同様の犯行態様を語ることができたのか。
例えば見取図について,柳原さんは,取調官が柳原さんの手をとって見取図を描いた(描かせた)と言っています。
また,暴行,脅迫により自白を強要されたとも言っています。
その真偽は私には分かりませんが,少なくとも,警察官が「指示」や「指導」でもしなければ,描けるはずがありません。
被害者宅の案内も,犯行態様の供述も,同様です。
つまり,柳原さんの自白なるものは,警察官が作ったフィクション,嘘の物語だったのです。
この冤罪事件では,柳原さんの無実を推認させるいくつもの客観的な証拠がありました。
●柳原さんの足よりも3センチ以上も大きいサイズの犯人の靴跡,
●犯行時刻に柳原さんの自宅固定電話から電話がかけられたことを示すNTTの通話記録,
●犯行に使用されたのはサバイバルナイフとチェーンであったとする被害者の供述に合う物証が出ず,柳原さん宅からは果物ナイフとビニールひもしか発見されなかったこと
●この事件では犯人が被害者に「100数えるまで動くな,目を開けるな」と言って逃げるという特徴的な手口がとられていたところ,柳原さん逮捕後も氷見署管内で同じ手口で逃げる強姦事件が複数(そのうち1件は裁判中に)発生していること
などなど。
このような証拠を見落として(または知っていて目をつぶって)柳原さんを犯人と決めつけ,「嘘の物語」を作ったのです。
許されない違法な捜査といわざるを得ません。
同様の冤罪事件をなくすには,最低限,取調べの可視化(取調の全過程の録音録画)が不可欠です。
2010年,大阪府警の取調官が,任意同行後の取調べで大声を上げ被疑者を脅迫した事件がありました。
→Wikipedia「大阪府警警部補脅迫事件」
これは,被疑者が取調べを録音していたから認識できたのです。録音されていなければ闇に葬られたことでしょう。
現代日本でもまだこのような取調が現実に行われています。
柳原さんの取調べでも,同様の様子だった可能性が十分あります。
そのような違法取調べを抑止するためにも,違法取調べであったこと(違法取調べではなかったこと)を立証するためにも,取調べの全過程の録音・録画が必要だとあらためて思いました。